関西大学グリークラブ 第53回定期演奏会 プログラムノート  2012年1月15日 

朝の頌歌


2007年に東京都立大学グリークラブOB会の委嘱により誕生した男声合唱曲です。
木下牧子さんは、楽譜のノートに次のように書いておられます。

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この曲集では、大好きな大岡信作品から、若々しくスケールの大きい3篇をテキストに選びました。1曲目「気ままな散歩」はシュールな感覚の広がりとスピード感が楽しめる作品です。久しぶりに躍動、疾走するタイプの作品を書いたという気がします。2曲目の「美術館へ」は、美術館の厳かな静けさと、初めて芸術作品に対峙したときの高揚感とのコントラストを描いた作品で、ここでもイメージが大きく広がって飛翔していきます。最後の「朝の頌歌」は夜が明けていく情景を息長く大きく歌い上げる作品で、この曲だけで6分近くあります。暗い夜明けのピアニッシモのハミングから、陽が力強く昇って世界を光で満たすフォルティシモまで、非常に息の長いドラマチックな作品です。
今回は珍しく「間奏曲」的な作品が挟まらず、3曲とも骨太な作品になっています。何となくがんばって歌うのではなく、曲の構成をしっかり把握した上で音楽に流れを作り、段階的にテンションを引き上げていただけると、音楽的に立体感が出るはずです。
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大岡信さんが「朝の頌歌」を書かれたのは1947年1月、大岡さんが中学4年(現在の高校1年)の時ということです。敗戦後二年足らずのこの時期、長く悲惨な戦争で廃墟と化した日本は、終戦の混乱を乗り越え、人々は逞しく立ち上がろうとしていたはずです。それはまさに暗い夜が次第に白みはじめ、最初の太陽の光が地上に降り注がんとするばかりの有様であったと思います。

今、私たちは、それに匹敵する苦難の中にあります。私たちのささやかな歌声が、光射す未来の到来を待ち望む祈りとなり、それが、聴いてくださるお客様を通じて日本中に広がっていくことを心より願うばかりです。

西岡茂樹