「はっぱとりんかく」の初演に寄せるメッセージ


今を生きる若者達への素晴らしい贈り物に感謝!

 ハイマートとフリューゲルの皆さんから客演指揮のお招きがあった時に、すぐに萩京子さんへの委嘱を思いついた。それは、ここ数年、私が指揮をする複数の団体から萩さんにお願いして次々と新しい合唱曲を書いていただいたが、そのどの作品も委嘱団体の想いをしっかりと受け止めて書いて下さり、また、それぞれにとても新鮮な合唱表現が織り込まれていたからだ。つまり、今、萩さんはとても“筆がのっている”と感じていたからである。

 どちらかと言うとこれまでの萩さんの作曲は、「こんにゃく座」のお仕事に代表されるようなオペラ、ソング、合唱劇が中心であった。しかしそれらの音楽に流れる「うた」への熱い想いは、きっと合唱の世界にも新しい風を吹き込んで下さるに違いないと感じていたが、その直感は正しかったと確信している。
 混沌とする21世紀の初頭を舵取りしていくのは、まちがいなく今の大学生諸君だ。そんな彼らが新しい合唱をつうじて、自己を識り、世界の現在を識る。“筆がのっている”萩さんなら、きっと今を生きる若者にとって大切なことに気付かせてくれる曲を書いてくださるはずだと思った。

 委嘱が決定した後、両団の代表者ともお会いいただき、これまでの演奏会の録音なども聴いていただいた。そして選ばれたのが「まど・みちお」さんの詩だった。
 シンプルでありながら、おそろしいまでに透徹した世界観。静でいて動、冷えていて熱く、寡黙でありながら雄弁。これらの相反する要素が互いに争うことなく共存している「まど」さんの詩は、まさに今、地球が渇望している調和を具現化しているのではないだろうか。
 そして萩さんご自身の作曲に対する態度もまた「まど」さんの詩作と相通じるところがあると思う。“これはいったいどんな結末になるのやら”と、ちょっと恐ろしくもあったが、萩さんはこの物凄い詩人と苦闘の末、そんな苦闘の後は微塵も感じさせない、期待をはるかに越えた素晴らしい曲を若者達のために書いてくださった。

 曲の完成が遅れたため、やや練習不足の感は否めないが、今宵、両団の若者達が志を一にし、萩さんご自身のピアノに導かれながら、今ここにいること、生きていることの総和を、衒いのない等身大の、しかし何物にも代え難いかけがえのない合唱音楽として表出してくれるならば、仕掛人としてこんなに幸せなことはない。

  しかし、また萩さんの虜になってしまった。どうしよう…

2005年6月26日
客演指揮 西岡茂樹