地図にない川 枚方演奏会 アナウンス原稿


 

  女声合唱アルモニ レジュイは、今から約30年前、千里ニュータウンの小学校PTAコーラスとして出発しました。幾多の変遷がありましたが、1999年には、西岡茂樹さんを指揮者に迎えてからは、「日本語の豊かで美しい表現」を「同時代の合唱作品」を通じて追求することに力を注いでいます。

  「アルモニ レジュイ」とは、フランス語で「ハーモニーの喜び」という意味です。私たちは雑事に流されがちな日常生活の中にあって、週に1回、合唱によるハーモニーの喜びに満たされることにより、人生を少しでも実り多いものにしたいと願っております。

 本日、演奏致します「地図にない川」は、2年前に、オペラシアターこんにゃく座の音楽監督である萩京子さんにお願いして創っていただいた曲です。
「今を生きる私たちが歌うにふさわしい歌を」との願いを聞き入れてくださり、萩さんは「石垣りん」さんの5編の詩をテキストに選ばれました。

 石垣りんさんは、1920年の東京に生まれ。14才で銀行に就職し、生涯独身のまま定年退職まで勤め上げられました。戦争一色の青春時代を過ごし、敗戦後の日本を、一人の女として逞しく生き抜かれたわけですが、そんな苛烈な人生の合間に書きつづられた多くの詩は、私たちの心を激しくゆさぶります。わけても年輩の女性にとっては、砂漠にしみいる水のように、心にしみいるのではないでしょうか?

 この組曲で使われている詩は、どれも抽象的、比喩的表現の多いものです。そのため詩が表現しようとしていることが、直接的にはわかりにくいのですが、逆にその分、日常的な言葉をはるかに越えた豊饒な世界が広がります。


1番の「川のある風景」では、人生を川の流れに喩え、
2番の「用意」では、晩秋の落葉を次の春の新しい命への用意と見る。
3番の「海のながめ」では、女の体と心を海に喩え、
4番の「干してある」では、洗濯干し場に干してあるふとんに、人生の半分の夜の世界を見る。
そして5番の「地図にない川」では、産卵のために初夏に川をさかのぼる鮎を見て、先祖が帰っていった所へ自分もまた帰っていこう、とします。

 これらの詩をもとに、同じ女性として石垣さんを心から敬愛していた萩京子さんが、人生経験豊富な女声合唱団が歌うに相応しい曲として作曲してくださいました。
 私たちはこの曲が日本中の多くの女声合唱団に歌われることを願っています。

2005年5月22日
西岡茂樹