五つの願い プログラムノート


《 溢れ 流れ 継がれ 》

三善晃

 これら五つの歌を、谷川俊太郎さんが「五つの願い」と名付けて下さった。それよりほかに私達の心は表せない。

 私達というのは、今なにを歌いたいかを一緒に語り合い、谷川さんの詩を持ち寄った三年前のローレル・エコーの方々と私のことだが、その心は私達だけのものでも、三年前に過ぎ去ったものでもないだろう。これらの詩は、今までも、今も、これからも、みんなで願い、伝えてゆかねばならないことを語っている。
  ときにそれは、哀しみのなかに励ましを、笑いのなかに痛みを、絶望のなかに夢を透写する。私はそれを耳で聴いた。

 今までに聴いた演奏がどれも私の心のなかに響いている豊中混声合唱団の皆さんが、その「五つの願い]を、一つの心で、一つの歌 声で願っで下さることを大事に、また幸せに想う。
  ローレル・エコーの方々も私も若い世代ではない。そう、谷川さんも。だが「願い」は、私達が、もしかすると皆さんよりも若かったときから今に変わらずに生き続けている私達のどこかから溢れだしている。その溢れだすものの行き場がないのではないことを、皆さんの歌が教えてくれる。それは流れ、聴いて下さる方々の心の流れを誘いもするだろう。そうして、ひそかにでいい、「願い」によってみんなが信ずることができれば…願うことにおいて誰も孤独ではない、と。

第29回豊中混声合唱団定期演奏会(1989年) プログラムより