あさくら讃歌 プログラムノート


あさくら讃歌

ー 天地を結ぶ ー
三善  晃

 1992(平成4年5月の植樹祭に合わせ、地域文化の新しいかからをと、甘木・朝倉広域市町村圏の合唱団有志の方々(代表・鞭幸枝さん)と市町村圏が一体となって制作した。

 テキストは朝倉出身の後藤明生さん。八編の詩の第四編のあとに宮崎潮処子作詞(皇后陛下作曲)の《おもひ子》が挿入され、第三編のなかに近藤思川作詞(山田早枝作曲)の《菜の花の国》、第四編には謡曲《綾鼓》が引用されている。散文体を基調に語りも韻文もあり、全編を通じ甘木・朝倉の歴史・風上・言語・習慣が描かれ、郷土愛と未来への思いが表現される。

 おそらくそれらすべては<樹霊あるいは地霊の物語>でもあろう。ただし<物語>はいま生きていて、語られることが目の前で起こる。つまり私たちは甘木・朝倉の樹霊あるいは地霊と言葉を交わし、ともに古処山頂から筑後川流域のパノラマを楽しんだり、する。

 それで、合唱に笛と三本の和太鼓を加えた。笛と太鼓は樹霊あるいは地霊の言魂であり、その現存在を表す。合唱は詩句を歌うばかりでなく、笛、大鼓とともにこの世界の奥行きを描きもする。そうして展開する八編の絵巻を語りが綴る。語りは叙述のためだけではなく、合唱の呼吸とは異なった速度の感情、異なった視覚の俯瞰、異なった聴覚の契機を糸として、八編を縫い紡ぐ。《おもひ子》と《葉の花の国》は原曲の旋律に基づいて編曲した。

 初演(5月10日・甘木文化会館)は、合唱に朝倉高校音楽部のほか地元7団体、笛に赤尾三千子さん、太鼓に高橋明邦さんほか2名、謡曲に宝生流の山下一馬さん、語りを私、以上の指揮を田中信昭さんという出演で行い、植樹祭に臨席なさった天皇皇后両陛下も来聴された。(同じ出演で12月13日に再演)。

 地域社会の制作だが、天と地を結ぶ一つのハレルヤとして、西岡茂樹さん指揮の豊中混声が採り挙げて下さったことを感謝したい。甘木・朝倉の方々も喜んで下さるだろう。

第33回豊中混声合唱団定期演奏会(1993年) プログラムより