Vaughan Williamsによるイギリス民謡の調べ


懐かしき良きイギリスの調べ

西岡茂樹

 イギリスは合唱王国と言われるが、その源流には、多数の素晴らしい民謡があることは間違いないだろう。そして、それらの民謡は、どこか日本人にとっても心温まる、懐かしい響きがする。もしかすると、島国という共通の事情があるのかも知れない。ただ、一言で「イギリス民謡」とは呼べない多様さもあり、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドという大きな4つのエリアが存在して、それぞれが独自の特徴をもっている。

 さて、イギリス民謡は、日本にも明治の初期以来、数多く輸入され、教育現場での唱歌として親しまれてきた。「埴生の宿(Home Sweet Home)」、「ロンドン橋(London Bridge)」、「思い出(Long, Long Ago)」、「蛍の光(Auld Lang Syne)」、「アニー・ローリー(Annie Laurie)」、「故郷の空(Comin’ Thro’ The Rye)」、「庭の千草(The Last Rose of Summer)」、「ダニー・ボーイ(Danny Boy)」、「春の日の花と輝く(Believe Me if all Those Endering Young Charms)」など、あっという間に10曲近く出てくる。

 今日は、やはり良く知られているイングランド民謡の「グリーンスリーブス(Greensleeves)」とスコットランド民謡の「ロッホ・ローモンド(Loch Lomond)」の2曲を、イギリスを代表する作曲家の一人であるレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams 1872~1958年)の編曲で、さらに彼自信がイギリス民謡風に創作した「リンデン・リー(Linden Lea)」の計3曲を、男声のア・カペラでお聴きいただきたい。

 「グリーンスリーブス」は、16世紀頃に成立したイングランド民謡とされているが、その起源は諸説あり、真相は不明である。またこの「緑の袖」についても様々な意味や解釈があるようだが、ここでは愛する女性の呼称ということにして、ロマンチックで切ない愛の歌としてお聴きいただきたい。

 「ロッホ・ローモンド」は、やはり原作者不明のスコットランド民謡。「ロッホ」とは「湖」の意味であり、スコットランド南部のハイランド地方にある「ローモンド湖」がその舞台とされる。やはり歌の解釈については諸説あるが、いずれにせよスコットランドとイングランドの長年に亘る争いが背景にあることは間違いなさそうである。美しいローモンド湖を背景に、イングランドとの戦いに敗れたスコットランド兵の悲哀が歌われる。

 「リンデン・リー」は、イギリス民謡に深い造詣があった作曲家ヴォーン・ウィリアムズが、民謡風の曲として創作したもの。William Barnes(1801~1886) の詩は、イギリスの美しい田園風景を描き、そこではりんごの実がたわわに実っている。そして、都会での殺伐とした生活の中にあって、懐かしい故郷リンデン・リーへの望郷の念が熱く綴られる。

 以上、懐かしき良きイギリスを彷彿とさせるこれら3曲を、男声ならではの厚いハーモニーと熱い歌心でお聴きいただきたい。