関西大学グリークラブ 第53回定期演奏会 プログラムノート  2012年1月15日 

つぶてソング


和合亮一さんは、福島市で高校の教師をしながら、現代詩を書き続けておられ、これまでに現代詩壇で多くの賞を受賞。日本で最も注目される詩人の一人として、精力的に活動してこられました。お酒もよく飲み、とても元気で快活な人です。

ところが、その運命を、3月11日の東日本大震災、それに続く福島原発の事故が、大きく変えることになりました。
福島市は原発から60km。放射線量も決して安心できる量ではありません。原発が爆発する中、余震も続き、奥様と中1の息子さんを遠くへ避難させた後、「明日、死ぬかも知れない。そう覚悟を決めた時に、自分の生きてきた証を残しておきたい。」と思った和合さんは、インターネットのツイッター(140文字以内という限られた字数で情報を発信できる仕組み)に詩を書き始めました。3月16日の午前4時のことです。

誰もいないアパートでただ一人、誰の目にも留まらないだろうと思って書き始めた言葉たち。しかし、意外にも、すぐに多くの人からの反応が寄せられ、福島の本当の今を知る窓口とまで言われるようになりました。
そこには、絶望、怒り、やりきれなさ、悲しさなどが短い字句に凝縮して綴られていますが、それでも、その底流には、いつも「福島をあきらめない」「福島で生きる、福島を生きる」「明けない夜は無い」という祈りが流れているのでした。

これらの言葉に感銘を受けた作曲家の新実徳英氏が「つぶてソング」という題名で、連作を始めました。すでに12曲が発表されています。まずは単旋律のユニゾンで作曲されていますが、今、順次、合唱にも編曲されつつあります。
シンプルで誰でも歌いやすいメロディーでありながら、とても美しく、力強いエルネギーを持っています。今、日本の各地で福島への共感と応援歌として、歌われ始めています。

今宵は、合唱団の演奏会としては稀なことではありますが、これらの曲をユニゾンで歌わせていただきます。ただ、新実先生はすでに男声合唱への編曲作業を進めておられ、この原稿を書いている2011年12月8日現在、第1曲の「あなたはどこに」だけが届いています。年末から年始にかけて、もしかしたら何曲かは男声編曲が完成するかもしれませんので、間に合えばそれらを交えて歌いたいと思います。

西岡茂樹