信長貴富さんからのメッセージ


子どもと大人が一緒に歌える合唱曲を、という宿題を西岡茂樹さんから受け取って以来、あれこれ悩みつつ月日が流れました。何を歌うか、どう歌うか、可能性は限りなく広いように思える一方、確信が持てる答えはなかなか見つかりませんでした。

作曲にあたっては、子どもと大人双方の声の色の違いを楽器の音色の違いとして活用するということがまず考えられます。その音色の違いが必然性を持つために「何を歌うか」という点が問題でした。

合唱音楽を見渡したとき、女と男の性差や、年齢差といった個の属性は、しばしば昇華され、抽象として扱われます。つまり、女が男の言葉を歌っても、その逆でも舞台芸術として成立するわけです。子どもと大人という編成に於いても、それぞれの音色を抽象として捉える考え方も可能だと思います。

一方、舞台上の子どもたちと大人たち、その立ち姿、その光景には自ずと「意味」が生まれてくると私には思えるのです。その「意味」を手がかりに今回の作品を構想しました。

変わらないもの。変わりゆくもの。子どもと大人が見上げる一枚の空。見つめる眼。子どもから見た大人。大人から見た子ども。昔は子どもだった大人。やがては父となり母となるかも知れない子どもたち。一本の樹。見上げる眼。変わらないもの。変わりゆくもの。

豊中少年少女合唱団と豊中混声合唱団にはこれまでに拙作をたびたび取り上げていただいたり、演奏を拝聴する機会を得たりしていて、演奏家・作曲家としてのお互いの性格を知る仲でした。両団の演奏技術をもってすれば技巧的に高度な音楽を作曲することも許されると思いましたが、今回は子どもと大人が一緒に歌うという営みを日常の風景にしたいという願いから、簡潔な響きを目指して作曲した次第です。

西岡茂樹さん、豊中少年少女合唱団と豊中混声合唱団の皆さん、このような機会をお与えいただきありがとうございました。

2011年4月2日

-------------------------------------

信長貴富

1994年上智大学文学部教育学科卒業

1994・95・99年朝日作曲賞(合唱曲)

1998年奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位

2000年現音作曲新人賞入選(室内楽曲)

2001年日本音楽コンクール作曲部門(室内楽曲)第2位

多数の合唱作品のほかに、「Fragments」などの歌曲、「エレジアコ・エレキテル」などの室内楽、また邦楽器のための作品も多い。

信長レッスン

2011年4月3日(日) 信長貴冨さんをお迎えして豊少と豊混の合同練習をしました