関大グリー 第51回定期演奏会 プログラムノート


木下牧子混声合唱曲集

 木下牧子さんの合唱曲は、特に若い人たちには絶大な人気があるが、それはシンプルな構成のなかに、とても歌いやすく美しいメロディーと暖かく上品なハーモニーが満ち満ちていて、若者の心をあっと言う間に魅了してしまうからに違いない。
今回も高校生と大学生のコラボレーションということで、迷うことなく、木下牧子さんの混声合唱曲集を選んだ。谷川俊太郎さんの詩によるピアノ伴奏付きを3曲、そしてせっかく混声合唱を経験するのだから、その中に、まど・みちおさんの詩によるア・カペラを1曲組み込んだ。

@春に
1989年教育音楽5月号に混声3部作品として発表されたが、後に混声4部版や女声版も発表され、もはや合唱人の定番と言えるだろう。寒く暗い冬を越えてようやく訪れた春。それは生命の芽生え、そして新しい世界への旅立ちの季節。私達の心に沸き起こってくる、新しい季節への予感、期待、時には不安。それらが奔流のようにきらめき出る春。「この気もちはなんだろう」というリフレインが印象的な青春賛歌。

Aおんがく
まど・みちおさんの“おんがく”に対する愛情は並大抵ではない。だって「みみをふさいで おんがくを ながめていたい / ほほずりしていたい そのむねに だかれて」なのだから。ア・カペラにこそ相応しい珠玉の1曲。

Bサッカーによせて
1987年10月に混声版が作曲され、その後、やはり男声や女声にアレンジされている。「乗りのいい、メロディアスな作品で、歌うと元気が出ること請け合い。」と木下さんは書いておられる。

Cネロ
1989年、広島県立加茂高校の三宅康生先生の委嘱により作曲され、同年のコンクール自由曲として初演された。他の3曲とは趣を異にする、とても重厚な合唱曲。“ネロ”とは谷川俊太郎さんが大切に飼っていた犬だそうで、処女詩集「二十億光年の孤独」に収録されていることから、谷川さんが18才の頃の詩だろう。
谷川さんは、わずか2才ほどで死んでしまったネロを前に、生命とは、死とは、そして人間が生きるとは、と思索を広げていく。季節は“夏”。詩は、ネロが生きていた“夏”を追憶しながら、それにオーバーラップして、さまざまな人が生きたさまざまな“夏”が絵巻物のように描写される。
そして「人間はいったいもう何回位の夏を知っているのだろう」と考えた末、「もうじき又夏がやってくる」が、僕は「すべての新しいことを知るために」「すべての僕の質問に自ら答えるために」「僕はやっぱり歩いてゆくだろう」と力強く結ばれる。
この詩の大きな振幅の展開に寄り添うように、曲もまた多彩な表情と情感を紡いでいく。技術的にも手強い曲であるが、その深さと味わいは格別で、木下牧子さんの豊かな力量が存分に発揮された名曲だと思う。
ちなみに、詩の中に登場する“メゾンラフィットの夏”とは「チボー家の人々」に出てくる夏、“淀の夏”とは、谷川俊太郎さんの母の実家の夏、“ウィリアムスバーグの夏”とはアメリカ映画「裸の町」の夏、“オランの夏”とはカミュの「ペスト」に出てくるアフリカの夏ということだそうだ。
夕陽丘高校と関大グリーの真剣勝負がどんな音楽を生み出すのか、エキサイティングな時間をお楽しみください。