アルモニ レジュイ 第9回コンサートによせて


アルモニ

1.五つのシャンソン

新実徳英さんの「五つの〜」シリーズから、昨年歌った「五つのポップソング」が好評だったので、続けてとりあげてみました。山本瓔子(ようこ)さんの五編の詩は、女性ならではの細やかで豊かな色彩感に溢れており、それにシャンソンタッチの音がついた素敵でお洒落な合唱曲集になっています。

2.女声合唱でポップスを

@Memory・・・ミュージカル「CATS」の挿入歌。夜の都会のごみ捨て場に集まったたくさんの猫たちの中から、天上で生まれ変わり永遠の命を得る一匹を選ぶという物語。この曲は、最終的に選ばれた娼婦猫グリザベラが昇天していく時に歌われる曲としてポップスのスタンダードナンバーとなっています。

AYou Raise Me Up・・・ノルウェー人男性とアイルランド人女性のデュオ「Secret Garden」が2002年に発表した曲で、日本では、アイルランドの女性グループ「ケルティック・ウーマン」によるカバーが有名。スケートの荒川静香もトリノで使いましたね。“あなたは私を力づけてくれる”と繰り返し歌われるラヴソング。

BRoute66・・・アメリカの国道66号線は、東海岸のシカゴから西海岸のロスアンゼルスまで伸びる全長3755kmの、まさに国を横断する幹線道路。1926年に建設されて以来、今日のアメリカの発展を支えました。曲はボビー・トゥループによって1946年に作詞・作曲されました。沿線のさまざまな地名が次々と歌詞に登場してくる軽快で愉快なナンバー。果たして今日の演奏は無事故で終点まで行き着けるかどうか・・・

3.薔薇、見知らぬ国

山崎佳代子さんは現在のセルビアの首都、そしてかつてはユーゴスラビア連邦の首都であったベオグラード在住の詩人。1991年から2001年にかけて連邦が解体していく過程で起こった多くの紛争を身を以て経験し、そして紛争後も今もそこに暮らし、戦争とは何か、人とは何かを見つめ続け、詩を書き続けておられます。

初期の詩は、戦争の悲惨を激しく書き綴ったものが多かったのですが、やがて深い絶望の故か、言葉は昇華され蒸留され、あたかも“童話”のような様相を呈してきます。詩集「薔薇、見知らぬ国」は、1994年から99年にかけて書かれたものであり、紛争が広域化・激化していた時期のものです。 松下耕さんは山崎さんと親交があり、これまでに山崎さんの詩で3つの組曲を作曲されています。「薔薇、見知らぬ国」は、その最新作であり2006年に初演されました。

組曲の3曲目の「階段、二人の天使」とは、山崎さんと同じアパートに住んでいたステファンちゃんとダヤナちゃんのことを歌っていますが、二人は、1999年にコソボ紛争に介入したNATOの空爆により、8才と5才という短い生涯を閉じました。

昨日まで仲良く幸せに暮らしていた人々が、権力の座を狙う者により、また偏狭な民族主義者により引き裂かれ、その結果、数十万の犠牲者を出し、数百万の住み慣れた土地を追われた難民を出したユーゴ紛争。これは、人類史上、希に見る人間の「愚」と「醜さ」と「弱さ」をさらけ出した戦争でしょう。

しかし、それは地球の裏側で偶然起こった出来事であり、私たちとは無縁と考えることはできません。規模の大小を問わず、“人間”ならば、いつでも、どこでも、起こりうるものと考えねばなりません。民族や宗教や思想や文化や、さまざまな違いを乗り越えて、人と人が平和に幸せに共存していくためには、いつもそのことへの強い“意志”を持ち続けることが必要であることを、私たちは教訓として学びたいものです。 大阪のふつうの女性のコーラスグループが、この曲を演奏会で歌う意味もまた、そこにあると思っています。                

(解説:西岡茂樹)