一柳慧作曲 混声合唱とピアノのための「未来へ」


2008年12月21日(日) 大阪大学混声合唱団 第50回記念定期演奏会  

  場所:兵庫県芸術文化センター大ホール

  指揮:西岡茂樹  ピアノ:武知朋子

  曲目: 第50回記念委嘱初演 一柳慧 「未来へ」

         特別な朝          詩:村山精工

         いま始まる新しいいま  詩:川崎洋

         あなた           詩:鈴村出徹

         未来へ           詩:谷川俊太郎

未来へ

練習風景

2008年12月6日(土)一柳先生によるご指導 飛鳥人権文化センターにて

一柳慧先生のプログラムノート

曲は4人の異なる作者の詩につけられている。

詩はそれぞれに独自の内容を持っているが、そこに共通するのは、21世紀に社会を担うことになる若い人達が、生きるということをどのように考えてのぞむか、という点であろうか。それらの練り上げられた言葉は、合唱曲を創る上で私にとっても、大いに触発される材料を提供してくれた。

曲は3曲めに歌われる「あなた」だけが無伴奏で、あとの3曲にはピアノがオブリガートとして使われている。

4つの異なる性格をもつ音楽であるが、聴き終えた後、そこに有機的なひとつの世界を感じとっていただくことができれば、作曲者としてこの上ない喜びである。

いつも密度の濃い誠実な指揮をして下さる西岡茂樹さんの元、今回、大阪大学混声合唱団の皆さんがどのような演奏を聴かせて下さるか、楽しみにしています。

一柳慧

 

 

西岡茂樹のメッセージ

二年半の軌跡と奇跡

第50回記念定期演奏会の委嘱について、現役の皆さんから最初に相談を受けたのは2006年の夏頃であった。たまたま、私が大学卒業後も、阪大の近くでずっと合唱指揮を続けており、わけても現代日本の多くの作曲家への委嘱活動に精力的に取り組んでいることを知っての相談であった。

その後、実行委員との数度の議論を経て、委嘱曲の大きな方向性を定め、それに沿った詩の選定作業へと進んだ。

また同時並行的に、誰に委嘱をお願いするかを検討した。これについては、阪大混声の半世紀を刻む記念碑的な事業なのだから、とにかく日本が誇る第一級の作曲家にお願いして、21世紀の初頭における大学合唱界の金字塔として残る作品を創るべきであると考え、それに相応しい方として、私は一柳先生を推薦した。そして学生諸君の同意を得た上で、委嘱のお願いのお手紙を書いたのは2006年12月のことだった。

一柳先生はすぐにお電話を下さり、快諾してくださった。戦後日本の現代音楽シーンをリードしてこられた巨匠が、超アマチュアの大学合唱団のために書いて下さるなど、奇跡に近いことと思っていたので、本当に、この時は飛び上がらんばかりに喜んだ。

その後、2007年3月には学生諸君の代表と共に、一柳先生にお会いし、委嘱曲に関するさまざまな意見交換をさせていただいた。また、選び出した多くの詩を提出し、ご検討を依頼した。

結果的に、今回の4曲は、すべて学生諸君が選び出した詩に作曲されている。

また、作曲に関しても、一柳先生には無理難題をお願いした。つまり、阪大混声の団員はほとんどが大学に入ってから合唱を始めた者なので、高い技術力が必要とされる曲は歌えない。平易でありながらも、深い内容と高い芸術性を持った曲を書いていただきたい、とお願いしたのだった。

最初の曲が届いたのが、2008年6月、最後の曲が届いたのが12月2日。新しい譜面が届く度に、学生諸君の思いをしっかりと受け止めてくださった作曲を眼の当りにし、胸が熱くなった。

この間、今年の11月には一柳先生は2008年度の文化功労者に選ばれたが、あまりのタイミングの良さに驚くと共に、「ああ、これでまた作曲が遅れる…」と嘆いたことでもあった。

そして、去る12月6日、ついに大阪の練習場に一柳先生がお越しになり、阪大混声が歌う委嘱曲を初めて聴いていただいた。何点かアドバイスを頂戴したが、全体的には、予想を遙かに超えた出来であるとお褒めの言葉をいただいた。私も団員一同も、胸をなで下ろした次第である。

こうして二年半に亘る委嘱プロジェクトは、本日、いよいよ世界初演を迎えることとなった。

いつの時代においても、若者は自己をどのように認識するのか、そして世界とどのように対峙し、どのように生きていくのかを、これまでも、そしてこれからも問い続けていくであろう。一柳先生の音楽は、詩人達の言葉と共に、これらの問いに対する確かな手応えと、生きる勇気を与えてくれる、いわば応援歌のように感じられる。そこには暖かい眼差しと大きな愛が満ち満ちている。

指揮者、合唱団共にまだまだ力不足のため、一柳先生のその音楽をどれだけ表現しうるか、甚だ心許ないが、今の自分自身に恥じることのない演奏、そして阪大混声50年の歴史の突端の輝きを宿した演奏にしたいと願っている。

この贅沢な場に偶然いられる幸せを噛みしめながら。

客演指揮者 西岡茂樹